しかも、その授業料は彼が支払うのである。
しかし、Bだけではなかった。 私の同僚のGも、調査の仕事のかたわら、通信教育で修士課程の勉強を続け、数年かけて会計学の修士号を取得した。

彼はその後、転職して、ファンドマネジャーになった。 もう一人、株式のセールスマン、Aも、自費で夜間の大学に通っていた。
すでに実績をあげ、相当な年収を得ていても、人知れず自分を高める努力を怠らない人たちがいる。 華やかなシティの隠された一面である。
いや、誰から言われるわけでもなく、自発的に研讃する心構えがあるからこそ、彼らはきびしい金融市場の第一線に立ち続けることが出来るのだ。 ロンドンの金融街、シティには輝かしい成功もあれば、無残な失敗もある。
億万長者も誕生するが、抜き差しならず、この業界を去っていく人もいる。 強烈な光と深い影が同時に宿る世界である。
だからこそ、こつこつと勉強し、研究を重ね、みずからの価値を高めようとする。 そして、ここが肝心な点だが、そうして自分を鍛えてこそ、安定した高収入が持続的に得られるということを、彼らは誰よりもよく知っているのだ。
何よりも自分自身の能力が、お金を生み出す大切な資産であることを、彼らは自覚している。 そのことを考える時、私の脳裏に、八○年代後半の日本の金融界が思い浮かぶ。
バブル景気が頂点に達したあの頃、日本の金融マン(とくに外資の証券マン)たちの収入は急増し、一億円に近い年収を手にした者は私のまわりにも大勢いた。 彼らの多くは、毎晩、銀座、赤坂で豪遊し、ハイヤーで深夜帰宅する生活を送っていた。
私自身がその渦中にいたから分かるのだが、恥ずかしいことながら、夜学に通って勉強するなどという雰囲気は全くなかった。 私を含め多くの金融マンが、にわかに湧き起こったバブル景気に酔い、それによってふくれあがった収入を自分の実力と錯覚し、舞い上がっていた。

時代の違いなどとはいえない。 たかだか十三、四年前のことでそれに比べると、シティの連中はどうだ。
数学の天才といわれるBでさえ、いまだに勉強をイギリス人はレストランで食事をする時、友人や同僚と会話を楽しみ、精一杯その時間を快適に過ごそうとする。 彼らはよくしゃべり、冗談を飛ばし、陽気にふるまう。
彼らの問でそれは礼儀でもあるようだ。 でも、最後の支払いの段になると、やや態度が変わる。

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